ことばの結びつき辞典 物語
#04

ことばの結びつき辞典

最後の文字をタイプし終え、香奈(かな)はキーボードから指を(はな)す。
かたわらに開いていた『ことばの結びつき辞典』も閉じた。
たった今書き終えた文章を読み返し、香奈は今日あった出来事を思い返す。
 
――今日のスタイリングは上手くできた。

最後の文字をタイプし終え、香奈(かな)はキーボードから指を(はな)す。
かたわらに開いていた『ことばの結びつき辞典』も閉じた。
たった今書き終えた文章を読み返し、香奈は今日あった出来事を思い返す。
 
――今日のスタイリングは上手くできた。

 
スタイリストとして美容室に勤める彼女(かのじょ)の帰りは遅い。
それでも毎日欠かさずに、香奈は店のブログを更新(こうしん)し続けている。
ブログにはオススメのヘアスタイルや化粧品(けしょうひん)紹介(しょうかい)など。
過去の記事を読み返すと、今でも当時の流行やお店のこだわりが思い出せる。

 
スタイリストとして美容室に勤める彼女(かのじょ)の帰りは遅い。
それでも毎日欠かさずに、香奈は店のブログを更新(こうしん)し続けている。
ブログにはオススメのヘアスタイルや化粧品(けしょうひん)紹介(しょうかい)など。
過去の記事を読み返すと、今でも当時の流行やお店のこだわりが思い出せる。

それだけではない。
香奈がそのとき何を考えていたか、どんな感情をいだいたかも一緒(いっしょ)によみがえってくる。
毎日書いているブログは勤め先の広告であると同時に、香奈自身の日記でもあった。
しかし、かつての自分が書いた文章に、物足りなさを覚える瞬間(しゅんかん)があるのもたしかだ。

それだけではない。
香奈がそのとき何を考えていたか、どんな感情をいだいたかも一緒(いっしょ)によみがえってくる。
毎日書いているブログは勤め先の広告であると同時に、香奈自身の日記でもあった。
しかし、かつての自分が書いた文章に、物足りなさを覚える瞬間(しゅんかん)があるのもたしかだ。

 
――このヘアスタイル、もっとうまい表現ができそう。
 
そんな風に感じるとき、香奈は『ことばの結びつき辞典』を開く。
華奢な香奈の手のひらでも片手であつかえるような小ぶりな辞典。
「こんな風に書けたら」という、彼女の想いを(かな)えてくれる(たの)もしいパートナーだ。

 
――このヘアスタイル、もっとうまい表現ができそう。
 
そんな風に感じるとき、香奈は『ことばの結びつき辞典』を開く。
華奢な香奈の手のひらでも片手であつかえるような小ぶりな辞典。
「こんな風に書けたら」という、彼女の想いを(かな)えてくれる(たの)もしいパートナーだ。

――お客様に文章の間違(まちが)いを指摘(してき)されないようにしないと。
 
香奈が美容室のブログを書き始めて以来、「記事を見た」といって店を訪れる客が増えた。
ブログのフォロワーも開始当初より増え、今では500人ほどになった。
素直に喜ばしいことである一方、からかい半分でことば言葉づかいの誤りを指摘する人もいる。

――お客様に文章の間違(まちが)いを指摘(してき)されないようにしないと。
 
香奈が美容室のブログを書き始めて以来、「記事を見た」といって店を訪れる客が増えた。
ブログのフォロワーも開始当初より増え、今では500人ほどになった。
素直に喜ばしいことである一方、からかい半分でことば言葉づかいの誤りを指摘する人もいる。

何もわざわざ言わなくてもと思うものの、誤用しているのは香奈だ。
いっそ開き直ってしまえるならよかったが、生真面目な彼女にそれはできない。
自身の語彙(ごい)を増やすことが一番の対策だと考えた香奈は、参考になりそうな書籍(しょせき)を求めていた。

何もわざわざ言わなくてもと思うものの、誤用しているのは香奈だ。
いっそ開き直ってしまえるならよかったが、生真面目な彼女にそれはできない。
自身の語彙(ごい)を増やすことが一番の対策だと考えた香奈は、参考になりそうな書籍(しょせき)を求めていた。

美容室の仕事はお世辞にも楽とは言えない。
アシスタント時代、仕事のつらさに(まくら)()らしたのは一度や二度ではない。
朝は誰よりも早く出勤し、先輩が来る前に店舗の清掃を終わらせる。
日中は忙しく立ち回り、営業後にはスキルアップのために夜遅くまで練習を欠かさない。

美容室の仕事はお世辞にも楽とは言えない。
アシスタント時代、仕事のつらさに(まくら)()らしたのは一度や二度ではない。
朝は誰よりも早く出勤し、先輩が来る前に店舗の清掃を終わらせる。
日中は忙しく立ち回り、営業後にはスキルアップのために夜遅くまで練習を欠かさない。

プライベートの時間はほとんどなく、仕事と生活のバランスがなかなか取れない。
それでも香奈がいまだに美容師を続けているのは、ひとえに美容が好きだからだった。
自分が価値を感じていることを、より多くの人に伝えたいという気持ちが彼女の原動力だ。

プライベートの時間はほとんどなく、仕事と生活のバランスがなかなか取れない。
それでも香奈がいまだに美容師を続けているのは、ひとえに美容が好きだからだった。
自分が価値を感じていることを、より多くの人に伝えたいという気持ちが彼女の原動力だ。

――もっといろんなことばで私が好きなことの魅力(みりょく)を伝えたい。
 
ことばの意味を知りたいだけなら、インターネットを使えばいつでも調べられる。
けれど〝本当に知りたいことば〟は見つからない。
 
『ことばの結びつき辞典』を見つけたのは、ちょうどそんな風に悩んでいた時。

――もっといろんなことばで私が好きなことの魅力(みりょく)を伝えたい。
 
ことばの意味を知りたいだけなら、インターネットを使えばいつでも調べられる。
けれど〝本当に知りたいことば〟は見つからない。
 
『ことばの結びつき辞典』を見つけたのは、ちょうどそんな風に悩んでいた時。

SNSで紹介されているのをたまたま見つけたのだ。
 
『文章表現のもやもやを解消する本』
『物書きの不安や(なや)みのヒントに』――
 
紹介文にはそんなことばが(おど)っている。
興味がわき、通販(つうはん)サイトの試し読みにざっと目を通す。

SNSで紹介されているのをたまたま見つけたのだ。
 
『文章表現のもやもやを解消する本』
『物書きの不安や(なや)みのヒントに』――
 
紹介文にはそんなことばが(おど)っている。
興味がわき、通販(つうはん)サイトの試し読みにざっと目を通す。

 
――これだ。
 
次の瞬間、香奈は『ことばの結びつき辞典』をカートに入れていた。

 
――これだ。
 
次の瞬間、香奈は『ことばの結びつき辞典』をカートに入れていた。

『ことばの結びつき辞典』を手に入れてから、開かなかった日はほとんどない。
ブログの更新をしない日も、ネットサーフィンの合間に辞典を開く。
中でも香奈が頻繁に開くのは、「心」のページだった。
 
――「心が洗われる」「心が晴れる」「心を躍らせる」…こんなにいろんな表現があるんだ。

『ことばの結びつき辞典』を手に入れてから、開かなかった日はほとんどない。
ブログの更新をしない日も、ネットサーフィンの合間に辞典を開く。
中でも香奈が頻繁に開くのは、「心」のページだった。
 
――「心が洗われる」「心が晴れる」「心を躍らせる」…こんなにいろんな表現があるんだ。

 
魅力を感じるのが人の心なら、それを伝えるのもまた人の心。 
ことばの正しい結びつきを知ることで、それまでよりも自然な文章が(つむ)げるようになり、香奈の感覚に沿った表現ができるようになった。
香奈がブログを通じて伝えたい想いが、正しい形で伝えられる。

 
魅力を感じるのが人の心なら、それを伝えるのもまた人の心。 
ことばの正しい結びつきを知ることで、それまでよりも自然な文章が(つむ)げるようになり、香奈の感覚に沿った表現ができるようになった。
香奈がブログを通じて伝えたい想いが、正しい形で伝えられる。

 
――楽しい。
 
調べたいことばが明確でなくても、この辞典を読むだけで語彙(ごい)が増える。
『ことばの結びつき辞典』があるだけで、世界の解像度が高くなる。
目に映るものが、より(あざ)やかに見える。
香奈一人の目に映る世界は(せま)くても、彼女の(ことば)がそれを〝無限大〟に(ひろ)げてくれる。

 
――楽しい。
 
調べたいことばが明確でなくても、この辞典を読むだけで語彙(ごい)が増える。
『ことばの結びつき辞典』があるだけで、世界の解像度が高くなる。
目に映るものが、より(あざ)やかに見える。
香奈一人の目に映る世界は(せま)くても、彼女の(ことば)がそれを〝無限大〟に(ひろ)げてくれる。

ことばの結びつき辞典

「相槌を-」に続くのは「打つ」? 「入れる」?--このような言い回しに迷っているとき,開くと解決する辞典。ことばのイメージが広がり,小説,シナリオ,歌詞などの創作にも役立つ。薄い,軽い,小さいの三拍子で,いつでもどこでも使える。