古今東西

言語化

言語化とは…?
感情や感覚、直感的なイメージを言葉にし、伝えること。
自分の思い・考えを、相手に伝達するための手段であり、自身が理解されるために必要なこと。
自分のイメージや思考を、言葉にするため、
そして他者により正確に伝えるためには、相応の語彙力(ごいりょく)が必要となる。
どんなに豊かな感情や、深い思案があったとしても、
自分の語彙の範囲でしか言葉にすることはできない。
『古今東西』は、言語化という課題と常に共にあるコラムニストの感情と思考を読み解くことで、
まずは、思いをことばやかたちにする、すなわち言語化することの大切さを学ぶコーナーである。

つた-える【伝える】《他下一》

❶そのものが媒体となって、他のものに移す。
「金属はよく電流をー・える」「作者の意図を読者にー・える」❷ことばで知らせる。「出発の日時をー・える」「ニュースをー・える」❸仲立ちをとおして告げ知らせる。伝言する。「彼には君からー・えてくれ」類語 言付ける。❹先人からことばを受けついで今に残す。言い伝える。「沼に竜がすむとー・える」❺代々受けついできて、あとの者に・残す(教え授ける)。「昔の情緒を今にー・える町」❻〔ある物・物事を〕よそからもってきて、そこに届かせる。もたらす。「海外から新技術をー・える」
『学研 現代新国語辞典 改訂第六版』(2020)株式会社 学研プラス

column_No. 08

神原 孝 Takashi Kanbara

フジクリエイティブコーポレーション(FCC)執行役員
テレビプロデューサー

1991年4月にフジテレビ入社。
『とんねるずのみなさんのおかげでした』ディレクター時代に、音楽ユニット「野猿」のダンサーとして参加。
その後『クイズ!ヘキサゴンⅡ』、『全力!脱力タイムズ』など、数多くの人気番組を手がける。

我思う、その壱

だから僕は「⾯⽩い」ことを考える。
⽇本の地上波テレビ放送は、最⼩限の努⼒で
娯楽を享受できるメディアである。

① テレビを買う
② アンテナを接続し、電源を⼊れる
③ チャンネルを選ぶ
たったこれだけ。

ネット環境も、⾔語による検索も、クレジットカードも必要ない。
視聴者は画⾯に映し出された情報を⾃由に受け取ることができる。⾒ていなくても電気代以外の⾦銭的負担はない。そして、飽きたら消してしまえば良い。

テレビのバラエティ番組を作るようになって、もうすぐ30年。
もちろん「⾯⽩い」を「笑える」という意味で⾔っていることは多いのだが、それだけではない。

例えば、ホラー映画を⾒たら、
『すごく怖くて「⾯⽩かった」』。
感動的な⼩説を読んだら、
『ひたすら泣けて「⾯⽩かった」』。
⼈間の喜怒哀楽、感情を揺さぶるものに対する、⼀番直感的な⾔葉が「⾯⽩い」なのではないだろうか。

この「⾯⽩い」があるから、視聴者はテレビを⾒て、⼼震わせる体験を期待する。

だから僕は「いかに、⼈の⼼を震わせるコンテンツを作ることができるか」を考える。


TV業界・ことば選び誤⽤辞典

なんと】

後ろに続く⾔葉や動画を強めたような気になる魔法の⾔葉。
※主にナレーションで使⽤。
2分程度のVTRに3回以上使われていると、
違和感を持たれることがあるので注意が必要だが、
最近のディレクターはあまり気にしない。
例(ハチ公の画を⾒せながら)
「ここは、なんと渋⾕駅なんです。」
(⼀般の家庭を取材で訪れて)
「⼀緒に住んでいた⼥性は、なんと彼の奥さんなんです。」

所謂(いわ-ゆる)】

テロップに使うと、⼀瞬「何と読むの?」と視聴者が迷う⾔葉。
※出演者が喋っている⾔葉の⽂字起こしを振られたADさんが、
PCで⼊⼒する際に気を利かせて漢字変換してしまい、
そのままテロップ原稿になってしまうことが多い。
その他の表現 暫く/漸く/杜撰/曖昧

この後、驚きの〜】

CM中も視聴者を同じチャンネルに留めておきたい場合に使う⾔葉。
※出演者が「え〜っ!」と⾔っている映像に合わせて使われることが多い。
ほとんどの場合、単にリアクションが⼤きいだけで、
その先に特筆すべき現象は無い。
俗にいう「引っ張り」。
その他の表現
「この後、衝撃の〜」
「この後、感動の〜」
「この後、〜に⼤号泣!」


我思う、その弐

番組作りに必要な⼒は、
「気⼒」「体⼒」「国語⼒」「リズム感」。
「気⼒」と「体⼒」は、ご想像通り。

これが無い⼈は、どんな世界でも苦労することだろう。
「国語⼒」と「リズム感」

基本、テレビは素材を捨てて作るものである。
例えば、10時間、爆笑の連続するトーク番組を収録したとしよう。しかし、その番組が1時間番組であれば、9時間以上の爆笑を切り捨てなければならない。
どんなに⾯⽩くても、決められた放送尺を超えることはできない。
では、笑いの⼤きかった部分だけ抽出したら、
「⾯⽩い」コンテンツになるのかと⾔えば、あながちそうでもない。

⽂章に起承転結があるように、テレビ番組にも起承転結は必要なのである。これが無いと、⾁をひたすら挟んだだけで、間に野菜もソースも、下⼿をすれば上下にバンズも無いハンバーガー(そう呼べればだが)になってしまう。⾷べづらいし、そもそも不味い。

話の流れを作り(ヤラセではなく)喋りだけでなく、時にナレーションやVTRを挟み(「なんと」の連続や「この後、驚きの〜」といった⾔葉は使わずに)⾯⽩いものを⾯⽩くする(時として素材を超えるくらい)ために、寝⾷を惜しんで(法令に違反しない範囲で)番組を作る。

番組作りに必要な⼒は、妥協しない「気⼒」、続ける「体⼒」、構成を⽴てる「国語⼒」、⾔葉を⼼地よく紡ぐ「リズム感」。