超人図鑑 制作の裏側超人図鑑制作の裏側 超人図鑑 制作の裏側超人図鑑制作の裏側

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#02

KINNIKUMAN × GAKKEN INTERVIEW

KINNIKUMAN × GAKKEN

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『学研の図鑑』といえば今でも学校の図書館には必ずと⾔ってよいほど置いてある、⼦どもの学習図鑑の決定版だ。学研の名前を知らなくても、図鑑を⾒れば「ああ、懐かしい!」と思う⼈も多いだろう。そんな『学研の図鑑』シリーズにおいて異彩を放つ⼀冊が『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』だ。

『キン⾁マン』といえば、ゆでたまご作の⼤⼈気漫画。2019年には連載40周年を迎え、現在でも⻑寿シリーズとして、⼦どもから⼤⼈まで幅広い層のファンが存在する。同作の作中に登場する多数の超⼈たちを分類し、詳細なデータベースとしてまとめたのが『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』である。

同書を企画し、図鑑としては異例の⼤ヒットを⽣み出した編集者・芳賀 靖彦(はが やすひこ)を迎え、『⾔語化タイムズ』⽣みの親であり総合プロデューサーである鈴⽊セリーナ⾃ら、誕⽣秘話についてインタビュー。全3回に分けてその様⼦をお伝えする。

第2回は芳賀の制作にかける想いを探る。

読者の⼼に“ささる”演出を取り⼊れる

鈴木セリーナ(以下鈴木):

前回はゆでたまご先⽣とのご縁や、「超⼈図鑑」の企画が⽣まれた経緯をお話しいただきました。今回は、より制作時の芳賀さんの想いなどの“舞台裏”をうかがいたいと思います。この図鑑を読んでいて気になったんですが、『キン⾁マン』のストーリーって聖書のオマージュがあったりもするんですか?(※1)

芳賀靖彦(以下芳賀):

各章の扉絵のことですね? これは僕が演出として取り⼊れたものになります。

鈴木:

この⽂⾔って聖書からの引⽤ですよね?

芳賀:

聖書“⾵”の⽂⾔ですね。キン⾁マンは現在も連載が続いていて、少し前のストーリーで「完璧超⼈始祖(パーフェクトオリジン)編」というのをやっていたのですが、そこに登場する超⼈始祖たちは、他の超⼈とは⼀線を画す存在で、『キン⾁マン』世界では超⼈界を作り上げた “神”として描かれています。図鑑でそんなキャラクターたちを他の超⼈と同列に扱うわけにはいかないですよね。そこで、僕らの⽣きる世界の神話になぞらえて、ザ・マンの「光あれ」に始まり、悪魔将軍の「闇」で終わる扉絵に登場させたらカッコいいんじゃないかなと。(※2)

※1 『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』2 ページ

芳賀:

そういった仕掛けに気づくことができれば、『キン⾁マン』の世界が、より⾝近でリアルな世界に感じてもらえるのでは、と思って演出してみました。

鈴木:

センスある!! てっきり原作から来ているのだと思って勘違いしてました。この悪魔将軍で幕を引く演出、これ⾒たとき「やられた!!」って思っちゃいましたね。もう⼀回初めから読み直さなきゃって気持ちになります。私も⾳楽プロデューサーとしてライブを演出する時、必ずその終わりは気持ち悪さというか、観客の⼼にモヤモヤを残すようにしているんです。ちょっと似たものを感じましたね。

芳賀:

ありがとうございます。図鑑に掲載している超⼈のうち⽣物をモチーフにした超⼈の分類は、植物にはじまり、ほ乳類まで、⽣物の進化の流れに沿って並べています。図鑑全体では「時間・宇宙」といった世界を構成するもの、⽣物に関するもの、機械や無機物に関するものが明確に分けてあります。図鑑を丸ごと⼀冊読んだときにストーリーを感じてもらえるように、流れは⼤切にしました。

※2 『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』258 ページ

世代を超えて『キン⾁マン』を楽しんでほしい

鈴木:

さすがですね。読んでいると芳賀さんの引き出しの多さやセンスのすごさが伝わってきます。これ『キン⾁マン』が好きな⼤⼈にピッタリの本ですよね。図鑑を読むにつれて知識が広がっていったり、原作を読むだけでは気が付かなかった演出のルーツがわかったりするところが最⾼です。

芳賀:

今『キン⾁マン』のファンの多くは、僕のように⼦どもの頃から好きだったという⼤⼈です。だから同じファンに喜んでもらいたいという気持ちは、企画を開始した当初からとても強く持っていました。ただ、意外な広がりもあって、この図鑑を買ってくれた⼈のお⼦さんが、あっという間に図鑑を読破してしまい「漫画も読みたい!」と⾔ってくれたそうです。そんなエピソードを聞くと、なんか世代を超えて僕が⼤好きなキン⾁マンがしっかり伝わっていく感じがして、ファンとしても本当にうれしくなりますよね。「超⼈図鑑」が世代間の架け橋となって、⼦どもと⼤⼈が⼀緒に『キン⾁マン』を楽しめるようなムードを作れているなら、これほど喜ばしいことはありません。

鈴木:

ファンを裏切らない編集者としての姿勢がすごい。幼い芳賀少年がいだいた思いが⼤⼈になって本当に叶うなんて、“ヒキの強さ”を感じますね(笑)。

芳賀:

いやいや(笑)。ゆでたまご先⽣や図鑑の制作陣はもちろんですが、集英社さんのサポートあってのことです。集英社さんも出版社なので、いわば競合企業にあたるわけですけれど、そんな中で「学研として『超⼈図鑑』を出版して良いですよ」と許諾していただけたことが本当にありがたかったです。企業としての懐の深さを感じましたね。そのおかげで、僕は40年越しの夢を叶えることができました。

「⾯⽩い本を作りたい」という想いが第⼀

鈴木:

学研という企業の実直な性格もこういった共同戦線を張るにいたった要因のひとつだったんじゃないかなと感じました。物づくりに対するこだわりというか、いいものを作ろうっていう想いというか。“読者がその本を⼿にとってどう思うか”にウェイトを置いているイメージ。

芳賀:

もちろん出版社も企業である以上、「売れる本」を作らないといけません。どの本も、企画段階でしっかりマーケティングをして、読者像を思い描いてペルソナを作り上げたりするのがふつうです。でも、「超⼈図鑑」に関していえば、マーケティングはほとんど必要なかったんですよ。なんせペルソナは僕⾃⾝なので(笑)。⾃分⾃⾝の購買意欲を刺激する内容にすればよかったんです。「どうやってこの本を⾯⽩くしようか」と頭をひねりつづけたことが、結果的には⾯⽩い図鑑を⽣んだのだと思います。

鈴木:

「これをやることでどのくらい売れるか」って考えることはビジネスである以上避けられませんよね。でも学研が売れること・売れる商品だけを⽬指してるのではなくて、本当に⾯⽩い本を作ろうとしている会社だと思われてるからこそ、集英社のような競合他社からも信頼されて協働できるんじゃないかと思いますね。

芳賀:

集英社さんは『少年ジャンプ』に代表されるようにエンタメに強い出版社ですよね。ぼくが取締役の⽅にいただいた名刺には“⾯⽩いことは正義だ”と書かれていたくらいですから、「⾯⽩い本を作りたい」という姿勢については同じなんだと思います。打ち合せで集英社さんを訪れた際に、その取締役の⽅に制作途中の図鑑のゲラをお⾒せしたら「学研さんじゃないとこれは作れないと思う」と⾔っていただけたのは、⾮常にうれしかったですね。

鈴木:

企業の枠組みを超えて⾯⽩いものを作るというのは刺激的ですね。学研の社内では「超⼈図鑑」の企画をどうやって通したんですか?

芳賀:

反対されるようなことは特にありませんでしたね。こういった企画で、すでに著者様から許諾を得られているという時点で、最⼤の課題はクリアされていますから。それに、なんといっても『キン⾁マン』とのコラボですから! 滅多なことではできない企画なわけですから、反対される理由なんかないですよね。

『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』の成功は、学研だけでは成し得なかったと芳賀は語る。彼の40年来の夢を叶えたのは、数多くの“縁”だった。
最終回は『超⼈図鑑』を⼤ヒットへと導いたもう⼀つの要因、PR戦略をテーマに話を聞く。

KINNIKUMAN × GAKKEN INTERVIEW

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PROFILE

  • 芳賀 靖彦(はが やすひこ)

    幼少期をアメリカ・テキサス州ヒューストンで過ごした。
    1994年学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。辞典編集者としてのキャリアを重ねる一方、子どもの頃から大好きだった『キン肉マン』の超人を、『学研の図鑑』シリーズに加えたいという夢を持ち続ける。2019年、原作者・ゆでたまごの全面協力を得て、『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』が出版される。そのほかに『スター・ウォーズ英和辞典』シリーズや『スター・ウォーズ/ジェダイの哲学』などの編集を担当した。

  • 鈴木セリーナ

    言語化タイムズ総合プロデューサー。大分県出身。幼少期から英才教育を受けお嬢様として育つ。15歳の頃、親への反発心からドロップアウト。年齢を隠して、地元クラブのホステスとなる。20歳の頃、「銀座のクラブのママになりたい」と夢見て上京。当時、テレビで有名だった銀座高級クラブ「F」で働く。相手の懐に飛び込むトークと物怖じしない性格が受け、たちまち人気ホステスとなる。その後、銀座老舗クラブ「江川」に引き抜かれ、売上ナンバーワンに。銀座ホステスを辞めてからは、主に文房具を扱う企画会社とタレントのキャスティング会社を起業。マルチクリエイティブプロデューサーとして、ビジネスの世界でも成功を収める。実業界から政界、マスコミ業界まで、様々な業界のトップクラスと親交が深いことでも知られる。