【夢中】
―希は、心を奪われ、我を忘れている―
いつもと変わらない、それでも少しだけ、
乾いた風が透き通る、小雪まじりの昼下がり。
彼女は一冊の本を手にしていた。
『感情ことば選び辞典』
〝辞典を読む〟その時間は、視界にとどまる雫すら透明に、
文字を辿る指先が、悴むことすら忘れさせる。
【夢中】
―希は、心を奪われ、我を忘れている―
いつもと変わらない、それでも少しだけ、
乾いた風が透き通る、小雪まじりの昼下がり。
彼女は一冊の本を手にしていた。
『感情ことば選び辞典』
〝辞典を読む〟その時間は、視界にとどまる雫すら透明に、
文字を辿る指先が、悴むことすら忘れさせる。
(一時間前)
「どうして、書けないの……」
化粧の奥の、まだあどけなさも残るその瞳は、
今にも感情が溢れ出しそうに潤んでいた。
(一時間前)
「どうして、書けないの……」
化粧の奥の、まだあどけなさも残るその瞳は、
今にも感情が溢れ出しそうに潤んでいた。
感じたこと、見てきたこと、これからのこと。
歌詞に込めようとする〝伝えたい想い〟は、
真っ白な雪に、足跡だけを浮き上がらせる。
歌が上手なお母さん、音楽が好きなお父さん。
少女にとって〝うた〟は、みんなを笑顔にす
る〝おまじない〟だった。
感じたこと、見てきたこと、これからのこと。
歌詞に込めようとする〝伝えたい想い〟は、
真っ白な雪に、足跡だけを浮き上がらせる。
歌が上手なお母さん、音楽が好きなお父さん。
少女にとって〝うた〟は、みんなを笑顔にす
る〝おまじない〟だった。
「どうして、分からないの……」
(この幸せな気持ちを伝えたいだけ)
(あの楽しかった思い出を奏でたいだけ)
「どうして、分からないの……」
(この幸せな気持ちを伝えたいだけ)
(あの楽しかった思い出を奏でたいだけ)
彼女は、自分の感情をどう表現すればいいの
か、過去をめぐる。
大人になるにつれ、広がってきた世界。
たくさんの出会いは、少女に色々な〝きもち〟を教えてくれた。
そんな思い出の数々は、
当たり前に口ずさんできた
〝魔法〟を連れ去ってしまう。
彼女は、自分の感情をどう表現すればいいの
か、過去をめぐる。
大人になるにつれ、広がってきた世界。
たくさんの出会いは、少女に色々な〝きもち〟を教えてくれた。
そんな思い出の数々は、
当たり前に口ずさんできた
〝魔法〟を連れ去ってしまう。
希は、家を飛び出す。
「見つけなくちゃ。わたしだけの、おまじない」
ずっと過ごしてきたはずなのに、その街並みは
どこか新しさを纏い、視界を走らせる。
ふと、目に留まる“ことばの世界”に彼女は無意識に誘われていた。
希は、家を飛び出す。
「見つけなくちゃ。わたしだけの、おまじない」
ずっと過ごしてきたはずなのに、その街並みは
どこか新しさを纏い、視界を走らせる。
ふと、目に留まる“ことばの世界”に彼女は無意識に誘われていた。
(本の匂い)
普段過ごすことのない静寂は、頭に響き続けていた声をかき消して、
心安らぐ、希望を与える。
あたたかい空気は、冷たい耳を少し赤らめ、
その照れ臭さを隠すかのように、
彼女は、朱色の本を手に取った。
「好きって、こんなにたくさんあるんだ」
(本の匂い)
普段過ごすことのない静寂は、頭に響き続けていた声をかき消して、
心安らぐ、希望を与える。
あたたかい空気は、冷たい耳を少し赤らめ、
その照れ臭さを隠すかのように、
彼女は、朱色の本を手に取った。
「好きって、こんなにたくさんあるんだ」
【好き】
愛好……
好意……
同好……
夢中……
思い浮かべる笑顔たち。
【好き】
愛好……
好意……
同好……
夢中……
思い浮かべる笑顔たち。
その頬を優しく染める〝おまじない〟。
ただ純粋に、うたうことが好きだったあの日を思い出す。
その手には、『感情ことば選び辞典』が開かれていた。
その頬を優しく染める〝おまじない〟。
ただ純粋に、うたうことが好きだったあの日を思い出す。
その手には、『感情ことば選び辞典』が開かれていた。
少女の知らない世界。
彼女の知っている世界。
文字を辿る指先は、悴むことすら忘れている。
希は、溢れる歌詞をうたっていた。
少女の知らない世界。
彼女の知っている世界。
文字を辿る指先は、悴むことすら忘れている。
希は、溢れる歌詞をうたっていた。
うたう 歌う/謡う/謳う
【歌う】
ことばに音楽的な節をつけ声に出す。
★童謡を歌う。
【謡う】
和歌や詩などにする。
★謡を謡う。
★民謡を謡う。
うたう 歌う/謡う/謳う
【歌う】
ことばに音楽的な節をつけ声に出す。
★童謡を歌う。
【謡う】
和歌や詩などにする。
★謡を謡う。
★民謡を謡う。
【謳う】
多くの人に知らせるように言う。
★主権在民を謳う宣言。
★効能を謳う。
★十年に一人の逸材と謳われるアーティスト。
『漢字の使い分け辞典』(2019)株式会社 学研プラス
【謳う】
多くの人に知らせるように言う。
★主権在民を謳う宣言。
★効能を謳う。
★十年に一人の逸材と謳われるアーティスト。
『漢字の使い分け辞典』(2019)株式会社 学研プラス