超人図鑑 制作の裏側超人図鑑制作の裏側 超人図鑑 制作の裏側超人図鑑制作の裏側

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#03

KINNIKUMAN × GAKKEN INTERVIEW

KINNIKUMAN × GAKKEN

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『学研の図鑑』といえば今でも学校の図書館には必ずと⾔ってよいほど置いてある、⼦どもの学習図鑑の決定版だ。学研の名前を知らなくても、図鑑を⾒れば「ああ、懐かしい!」と思う⼈も多いだろう。そんな『学研の図鑑』シリーズにおいて異彩を放つ⼀冊が『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』だ。

『キン⾁マン』といえば、ゆでたまご作の⼤⼈気漫画。2019年には連載40周年を迎え、現在でも⻑寿シリーズとして、⼦どもから⼤⼈まで幅広い層のファンが存在する。同作の作中に登場する多数の超⼈たちを分類し、詳細なデータベースとしてまとめたのが『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』である。

同書を企画し、図鑑としては異例の⼤ヒットを⽣み出した編集者・芳賀 靖彦(はが やすひこ)を迎え、『⾔語化タイムズ』⽣みの親であり総合プロデューサーである鈴⽊セリーナ⾃ら、誕⽣秘話についてインタビュー。全3回に分けてその様⼦をお伝えする。

連続インタビュー企画最終回は、『超⼈図鑑』⽣みの親が仕掛けたPR戦略を振り返る。

読者の「おや?」を引き出す違和感が必要

鈴木セリーナ(以下鈴木):

前回は図鑑制作のこだわりについてお話しいただきました。最終回となる今回は、商品販売には⽋かせないPR戦略についてうかがいたいと思います。
それにしても、他の『学研の図鑑』シリーズにまぎれて『超⼈』が並んでいたのを⾒たときは、わが⽬を疑いました(笑)。別件の商談で学研を訪問したときにたまたま⾒かけたんですけど、(※1)どうしても「さっき昆⾍図鑑の隣に並んでたの、“超⼈”だったよな…?」っていうモヤモヤがすごくって。商談を途中で中断して「あれ、なんですか?」って聞いてしまいました(笑)。

※1 詳しくは『⾔語化タイムズができるまで』をご覧ください

芳賀靖彦(以下芳賀):

ああ、それはもう狙い通りですね。ありがとうございます(笑)。本って世の中に溢れかえっているので、⽬に⼊ったときに何らかの「おや?」と、違和感を与える演出が必要だと思うんです。書店には毎⽇たくさんの本が並べられるので、どこかに引っかかりがないと、本来買ってくれそうな読者にもスルーされてしまいますからね。この図鑑にしてもそうです。「タイトルや図鑑そのもののたたずまいで⽬を引かなければ」と思っていました。『キン⾁マン』世界での“超⼈”は、他の⽣物と同じように独⽴した「種」なので、「もしも、この世界に本当に超⼈が存在したら、きっと学研はこんな図鑑を出版するんだろうな」という図鑑を⽬指しました。そんな世界には、当然「昆⾍」と同じテンションで「超⼈」の図鑑もラインアップに並びますよね(笑)。

鈴木:

同感です。PRにおいて違和感を残すことは、すごく⼤事ですよね。この世界に実際に超⼈がいたら(笑)。確かに昆⾍の隣に並びますね。52ページに載ってる(※2)、上野の不忍池で戦っているのも実際に漫画内であったことなんですか?

芳賀:

そうです。前書きを読んでいただくと“国⽴超⼈博物館館⻑”らがもっともらしい序⽂を寄せてくれているのですが(※3)、これ、名前をよくよく⾒ると、ゆでたまごのお⼆⼈の名前になっているんです。他にも、現実世界と超⼈の世界につながりを感じてもらえるようにと⾒返しに“超⼈ゆかりの地MAP”を掲載しています。(※4)こういう“らしさ”を追求したことでリアリティを演出できたんだと思います。

鈴木:

ちなみにこの“国⽴超⼈博物館”はどちらにあるんですか?

芳賀:

これは架空の施設ですので、ご想像にお任せします(笑)。

⼀番のターゲットは“⾃分”

鈴木:

ですよね(笑)。私も“⾮学校法⼈ 鈴⽊学院”っていう架空の学校を設⽴していますので、その感じはわかります。ちなみに「超⼈図鑑」の広告って、どういう⾵に打ち出していったんですか?

芳賀:

当初、広告は出していないのですが、「超⼈図鑑」の場合、表紙そのものが広告のような役割を果たしたんだと思います。ちょうど、今⼤⼈になっているファンが⽬にしていたであろう、1970〜80年代の『学研の図鑑』のデザインを復刻して、表紙にロビンマスクをあしらいました。その書影を、発売の3ヶ⽉前にネットに公開したんです。すると感度の⾼いファンの皆様がいち早く反応してくれて、SNS で「これ何? 学研の図鑑?」「まだエイプリルフールには早いよね?」と話題にしてくれました。表紙を公開しただけで、どんどん話題になっていったので、広告を打たずに済んだんです(笑)。

鈴木:

お話を聞いていると、芳賀さんは編集者でありながらPRのプロでもあるんだなと思います。「こういう結果を⽣み出すには、こういう道筋でアピールすればいいよね」ということがちゃんと考えられてるなと。

芳賀:

いや、そこまで戦略的に考えていたわけではないのですが、結果的にはマーケティングができていたのかもしれません。前回も少し触れましたが、この図鑑の⼀番のターゲットは僕⾃⾝なんですよ。ファンである僕が欲しいと思ったものをとことん追求すれば、きっと他のファンの皆さんも喜んでくれるだろうと思いました。

芳賀:

まずは、コアなファンに納得してもらえるものを作ること。次に、そこにダイレクトに情報を届けるのが⼀番⼤事だと思ったので、まず「ゆでたまご」公式サイトと集英社さんの「キン⾁マン40 周年ポータルサイト」に告知を掲載していただきました。
それと同時に、発売2か⽉前からamazonで予約できるようにしておきました。すると情報が公開された瞬間から、Twitterで話題になりはじめたんです。数秒に1 回くらいのペースでどんどんツイートされていったので、正直こわくもなりました(笑)。おかげさまで、翌⽇にはamazonの書籍ランキングで1位を獲得できました。やはり2つの公式サイトで商品をご紹介いただいたのが⼤きかったですね。実際の広告としては、去年の11 ⽉に、学研と集英社さんで合同の新聞広告を出しました。出版社の垣根を越えて『キン⾁マン』という漫画のテーマとなっている“友情パワー”が現実に発揮された瞬間でしたね。

鈴木:

これって、出版業界では異例のことじゃないですか?図鑑の制作を通じて様々なつながりが⽣まれたんですね。ひとつの施策から多⽅⾯へのアプローチが広がることを直感的に予測できているというところ、みんなを巻き込むパワーがあるところが、すごいと感じます。

芳賀:

ありがとうございます。何よりもこの図鑑を通して実感したことは、好きなものをずっと好きでいると、不思議と⾊んな⽅⾯につながっていくんだなということです。『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』のイラストを描いてくれたイラストレーターの⽅やデザイン会社、表紙の写真を加⼯してくれた会社やフィギュアを使⽤させてくれた制作会社など、この書籍にかかわった⽅は『キン⾁マン』ファンだらけです。

鈴木:

好きな⼈たちが⼤⼈になって、いろんな業界のプロフェッショナルになって…。なんだか芳賀さんはそんな同好会を取りまとめる会⻑みたいですね。情熱を持ち続けることの⼤切さが伝わってきます。最後に読者の皆さんへ⼀⾔コメントをください。

芳賀:

『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』は、僕と同世代で⽇々社会の中で頑張っている⼈たちへのエールでもあります。⼦どものころに図鑑を読んだワクワク感や、ドキドキしながら『キン⾁マン』を楽しんでいたころを思い出し、⼀時でも現実を忘れて夢中になっていた“あのころ”の気持ちを感じていただければ、これほどうれしいことはありません。ぜひお⼿に取ってみてください。

『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』の⼤ヒットが⽣まれた背景には、様々なPR戦略も編集者みずからかかわっている。しかしその根底にあるものは、芳賀の「『キン⾁マン』ファンに喜んでほしい」という純粋な願いだ。
⾃分が⼀番のターゲットだと楽しげに語る芳賀の表情は、数⼗年来の夢を叶えた少年の笑顔だった。『学研の図鑑 キン⾁マン「超⼈」』はこれからも多くの読者の⼿に渡り、世代を超えて新たな『キン⾁マン』ファンを⽣んでいくだろう。

KINNIKUMAN × GAKKEN INTERVIEW

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PROFILE

  • 芳賀 靖彦(はが やすひこ)

    幼少期をアメリカ・テキサス州ヒューストンで過ごした。
    1994年学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。辞典編集者としてのキャリアを重ねる一方、子どもの頃から大好きだった『キン肉マン』の超人を、『学研の図鑑』シリーズに加えたいという夢を持ち続ける。2019年、原作者・ゆでたまごの全面協力を得て、『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』が出版される。そのほかに『スター・ウォーズ英和辞典』シリーズや『スター・ウォーズ/ジェダイの哲学』などの編集を担当した。

  • 鈴木セリーナ

    言語化タイムズ総合プロデューサー。大分県出身。幼少期から英才教育を受けお嬢様として育つ。15歳の頃、親への反発心からドロップアウト。年齢を隠して、地元クラブのホステスとなる。20歳の頃、「銀座のクラブのママになりたい」と夢見て上京。当時、テレビで有名だった銀座高級クラブ「F」で働く。相手の懐に飛び込むトークと物怖じしない性格が受け、たちまち人気ホステスとなる。その後、銀座老舗クラブ「江川」に引き抜かれ、売上ナンバーワンに。銀座ホステスを辞めてからは、主に文房具を扱う企画会社とタレントのキャスティング会社を起業。マルチクリエイティブプロデューサーとして、ビジネスの世界でも成功を収める。実業界から政界、マスコミ業界まで、様々な業界のトップクラスと親交が深いことでも知られる。