「っと……もうこんな時間か」
尚徳の左手のスマートウォッチが振動し、一時間が経過したことを告げる。
彼はグッと背を反らし、肩を回して固まった体をストレッチさせる。
淹れたまま忘れていた、冷めきったコーヒーを一口飲み、顔をしかめた。
「……淹れなおそう」
「っと……もうこんな時間か」
尚徳の左手のスマートウォッチが振動し、一時間が経過したことを告げる。
彼はグッと背を反らし、肩を回して固まった体をストレッチさせる。
淹れたまま忘れていた、冷めきったコーヒーを一口飲み、顔をしかめた。
「……淹れなおそう」
尚徳は立ち上がり、コーヒーメーカーへと向かった。
手には一冊の使い込まれた書物を携えている。
『創作ネーミング辞典』と題されたそれは、スマートフォンほどの大きさ。
コーヒーメーカーがボコボコと音を立てる中、尚徳はその辞典に目を落としていた。
尚徳は立ち上がり、コーヒーメーカーへと向かった。
手には一冊の使い込まれた書物を携えている。
『創作ネーミング辞典』と題されたそれは、スマートフォンほどの大きさ。
コーヒーメーカーがボコボコと音を立てる中、尚徳はその辞典に目を落としていた。
尚徳は、とあるゲーム会社でプランナー兼シナリオライターを務めている。
これまでいくつかの作品に携わっており、中にはそれなりに売れたタイトルもある。
今も次回作の舞台設定を考案している最中だった。
「αναστασις……」
いいかもしれない、と尚徳は呟いた。
尚徳は、とあるゲーム会社でプランナー兼シナリオライターを務めている。
これまでいくつかの作品に携わっており、中にはそれなりに売れたタイトルもある。
今も次回作の舞台設定を考案している最中だった。
「αναστασις……」
いいかもしれない、と尚徳は呟いた。
すぐにモニタの前に座り、書きかけのテキストエディタに続きを打ちこむ。
ほとんど真っ白だった原稿がとてつもないスピードで黒く塗りつぶされていく。
たった一つのことばが引鉄となって、尚徳の中に散らばっていたアイデアを整列させる。
あとはそれを引っ張り出してやるだけだ。
すぐにモニタの前に座り、書きかけのテキストエディタに続きを打ちこむ。
ほとんど真っ白だった原稿がとてつもないスピードで黒く塗りつぶされていく。
たった一つのことばが引鉄となって、尚徳の中に散らばっていたアイデアを整列させる。
あとはそれを引っ張り出してやるだけだ。
コーヒーメーカーが鳴って、尚徳に〝できあがり〟を報せた。
しかし彼の耳にはまるで入っていない様子で、キーボードから指を離さない。
「いいぞ」
深い海の底には地上の雑音は届かない。
コーヒーメーカーが鳴って、尚徳に〝できあがり〟を報せた。
しかし彼の耳にはまるで入っていない様子で、キーボードから指を離さない。
「いいぞ」
深い海の底には地上の雑音は届かない。
部屋の中には驟雨のような打鍵音と、時折『創作ネーミング辞典』のページを繰る音だけが響く。
結局、彼が創作の世界から戻ってきたのは、それから一時間後のこと。
コーヒーは、また冷めてしまった。
部屋の中には驟雨のような打鍵音と、時折『創作ネーミング辞典』のページを繰る音だけが響く。
結局、彼が創作の世界から戻ってきたのは、それから一時間後のこと。
コーヒーは、また冷めてしまった。
温めなおしたコーヒーにようやく口をつけ、尚徳は深いため息をついた。
自身のアイデアに行き詰まりを感じていたある日、『創作ネーミング辞典』を見つけた。
それからというもの、『創作ネーミング辞典』は彼にとってお守りのような存在だ。
今だけではない。
温めなおしたコーヒーにようやく口をつけ、尚徳は深いため息をついた。
自身のアイデアに行き詰まりを感じていたある日、『創作ネーミング辞典』を見つけた。
それからというもの、『創作ネーミング辞典』は彼にとってお守りのような存在だ。
今だけではない。
出会って以来、幾度となく彼を助けてくれた〝戦友〟だった。
尚徳の『創作ネーミング辞典』には携わったゲームのシールが所狭しと貼られている。
そのうえ色とりどりの付箋も使われているおかげで、まるでカラフルなはりねずみのようだ。
出会って以来、幾度となく彼を助けてくれた〝戦友〟だった。
尚徳の『創作ネーミング辞典』には携わったゲームのシールが所狭しと貼られている。
そのうえ色とりどりの付箋も使われているおかげで、まるでカラフルなはりねずみのようだ。
尚徳は、もし『創作ネーミング辞典』に出会っていなかったら、と考えることがある。
「やめてたかもな……ゲームつくるの」
そのたびに尚徳はいつも通りの答えを導き出す。
彼が曲がりなりにも厳しいゲーム業界を生き抜いてきたことは間違いない。
しかし常に順風満帆とはいかなかった。
尚徳は、もし『創作ネーミング辞典』に出会っていなかったら、と考えることがある。
「やめてたかもな……ゲームつくるの」
そのたびに尚徳はいつも通りの答えを導き出す。
彼が曲がりなりにも厳しいゲーム業界を生き抜いてきたことは間違いない。
しかし常に順風満帆とはいかなかった。
ゲームクリエイターに限らず、すべてのクリエイターにとっての大きな課題。
それは〝いかにオリジナリティーを演出するか〟という点にある。
とはいえアイデアは無から湧いてくるわけではない。
ゲームクリエイターに限らず、すべてのクリエイターにとっての大きな課題。
それは〝いかにオリジナリティーを演出するか〟という点にある。
とはいえアイデアは無から湧いてくるわけではない。
必ず下敷きとなるインプットがある。
それを咀嚼し、自分なりに表現すること。
それが〝オリジナリティー〟だと、尚徳は考えていた。
必ず下敷きとなるインプットがある。
それを咀嚼し、自分なりに表現すること。
それが〝オリジナリティー〟だと、尚徳は考えていた。
尚徳はゲームも読書も大好きで、趣味としても多くの作品に人一倍触れている自負はある。
しかしそれはいわば〝貯金〟のようなもので、頼りきりではいつか使いつぶす日がくるだろう。
新たな挑戦をするためには、当然新たなインプットが必要だ。
尚徳はゲームも読書も大好きで、趣味としても多くの作品に人一倍触れている自負はある。
しかしそれはいわば〝貯金〟のようなもので、頼りきりではいつか使いつぶす日がくるだろう。
新たな挑戦をするためには、当然新たなインプットが必要だ。
「これ以上にしっくりくるもの、他にはないんだよなあ」
日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ラテン語、ギリシア語……一つの単語をこれだけの言語でパッと確認できるものはどこにもない。
同じ意味でも言語が違えば響きが変わる。
響きが変わればプレイヤーが感じる印象も変わる。
「これ以上にしっくりくるもの、他にはないんだよなあ」
日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ラテン語、ギリシア語……一つの単語をこれだけの言語でパッと確認できるものはどこにもない。
同じ意味でも言語が違えば響きが変わる。
響きが変わればプレイヤーが感じる印象も変わる。
極端な話、駄作か傑作かの分かれ道はことばの選び方ひとつだと、尚徳は信じている。
表現したい世界にはどんなことばが最適か、どうすればよりプレイヤーを引きこめるか。
尚徳はまた『創作ネーミング辞典』を携え、思考の海に潜っていく。
極端な話、駄作か傑作かの分かれ道はことばの選び方ひとつだと、尚徳は信じている。
表現したい世界にはどんなことばが最適か、どうすればよりプレイヤーを引きこめるか。
尚徳はまた『創作ネーミング辞典』を携え、思考の海に潜っていく。