色のことば選び辞典 物語
#03

なでしこ

色のことば選び辞典

イーゼルを立て、キャンバスをかける。
丸いすに(こし)かけ、パレットを開く。
 
オイルを少量馴染ませた筆、基本色をそろえ
た油絵具。
それに『色のことば選び辞典』も忘れない。
他にも道具をひとそろえテーブルに並べ、竜星(りゅうせい)は完成間近の絵をながめた。
悪くない、と思う。しかしまだ何かが足りな
いとも感じる。

イーゼルを立て、キャンバスをかける。
丸いすに(こし)かけ、パレットを開く。
 
オイルを少量馴染ませた筆、基本色をそろえ
た油絵具。
それに『色のことば選び辞典』も忘れない。
他にも道具をひとそろえテーブルに並べ、竜星(りゅうせい)は完成間近の絵をながめた。
悪くない、と思う。しかしまだ何かが足りな
いとも感じる。

――ここにもうひと()し、色彩がほしい。
 
ロダンの彫刻のように、じっと考えこむ。
竜星の頭に名案は()かばない。
けれど(かれ)の顔に(あせ)りの色は見られなかった。
 
――こういう時こそ使いどきだよな。
 
『色のことば選び辞典』を開くと、彼の両てのひらに

――ここにもうひと()し、色彩がほしい。
 
ロダンの彫刻のように、じっと考えこむ。
竜星の頭に名案は()かばない。
けれど(かれ)の顔に(あせ)りの色は見られなかった。
 
――こういう時こそ使いどきだよな。
 
『色のことば選び辞典』を開くと、彼の両てのひらに

色彩豊かな〝色のカタログ〟が現れる。
ぺらりぺらりとページをめくっていた竜星は、
ある箇所(かしょ)に目を留めた――。

色彩豊かな〝色のカタログ〟が現れる。
ぺらりぺらりとページをめくっていた竜星は、
ある箇所(かしょ)に目を留めた――。

(だれ)かに教わることは甘え〟だと、竜星は
ずっと思い込んでいた。
誰もが認める〝天才画家〟ならば、独力で
絵が()けると信じていた。
だから彼は絵画教室にも通わず、美大では
ない一般の大学へ進学した。
芸術サークルに(せき)は置いているが、なれあう
雰囲気(ふんいき)嫌気(いやけ)がさし、幽霊(ゆうれい)部員になっている。

(だれ)かに教わることは甘え〟だと、竜星は
ずっと思い込んでいた。
誰もが認める〝天才画家〟ならば、独力で
絵が()けると信じていた。
だから彼は絵画教室にも通わず、美大では
ない一般の大学へ進学した。
芸術サークルに(せき)は置いているが、なれあう
雰囲気(ふんいき)嫌気(いやけ)がさし、幽霊(ゆうれい)部員になっている。

 
しかし竜星は絵画に関して特別な才能は持って
いなかった。
天才でないならば、基礎(きそ)を知らなければ線の
一本も引けはしない。
十分に広い地盤(じばん)があってこそ、芽吹(めぶ)いた若葉
は大樹に育つのだから。

 
しかし竜星は絵画に関して特別な才能は持って
いなかった。
天才でないならば、基礎(きそ)を知らなければ線の
一本も引けはしない。
十分に広い地盤(じばん)があってこそ、芽吹(めぶ)いた若葉
は大樹に育つのだから。

竜星が自身の平凡(へいぼん)さを認めたのはつい最近の
こと。
制作してきた作品を並べて、気がついた。
 
――ぜんぶ同じような構成だ。
 
色も、構図も、モチーフも。
どれもこれも似たり寄ったりで、竜星の引き
出しの(とぼ)しさがあからさまにわかる。
 

竜星が自身の平凡(へいぼん)さを認めたのはつい最近の
こと。
制作してきた作品を並べて、気がついた。
 
――ぜんぶ同じような構成だ。
 
色も、構図も、モチーフも。
どれもこれも似たり寄ったりで、竜星の引き
出しの(とぼ)しさがあからさまにわかる。
 

――知らないことだらけだ。
 
「もっと知りたい」「もっと学ばなければ」と、素直に感じた。
誰かに教わることが()ずかしいという気持ち
はまだ竜星の中にある。
 しかし彼の目標は〝目の前の壁を乗り越え
ること〟ではない。

――知らないことだらけだ。
 
「もっと知りたい」「もっと学ばなければ」と、素直に感じた。
誰かに教わることが()ずかしいという気持ち
はまだ竜星の中にある。
 しかし彼の目標は〝目の前の壁を乗り越え
ること〟ではない。

 
――(おれ)が思い(えが)く〝アート〟を創れるようになりたい。
 
達成すべきはそれだけだ。
 
――でも、どうやって?
 
まずは情報収集だと、竜星は書店へと足を向
けた。

 
――(おれ)が思い(えが)く〝アート〟を創れるようになりたい。
 
達成すべきはそれだけだ。
 
――でも、どうやって?
 
まずは情報収集だと、竜星は書店へと足を向
けた。

そこで出会ったのが『色のことば選び辞典』
だ。
色彩についての感覚は、画家として身につけ
るべき能力。
つい難解な技法書に手を()ばしたくなる気持
ちを(おさ)え、竜星はこちらを手に取った。
 
――こんなことまで()ってるのか。

そこで出会ったのが『色のことば選び辞典』
だ。
色彩についての感覚は、画家として身につけ
るべき能力。
つい難解な技法書に手を()ばしたくなる気持
ちを(おさ)え、竜星はこちらを手に取った。
 
――こんなことまで()ってるのか。

 
『色のことば選び辞典』はまさに〝ことば〟と
〝色彩〟を結びつけてくれる。
色の名前、色見本、CMYK値、色が使われた
名文など、一つの色から得られる情報の多さに
竜星は感心した。
 
――このサイズならいつでも持ち歩けるな。

 
『色のことば選び辞典』はまさに〝ことば〟と
〝色彩〟を結びつけてくれる。
色の名前、色見本、CMYK値、色が使われた
名文など、一つの色から得られる情報の多さに
竜星は感心した。
 
――このサイズならいつでも持ち歩けるな。

 
彼が学業の合間におこなっているイラストレー
ターのアルバイト。
デザイナーや編集者との打ち合わせにも役立つ
かもしれない。
自身の夢を(かな)える第一歩として、また実用的な
ツールとして、竜星は『色のことば選び辞典』
購入(こうにゅう)することに決めた。

 
彼が学業の合間におこなっているイラストレー
ターのアルバイト。
デザイナーや編集者との打ち合わせにも役立つ
かもしれない。
自身の夢を(かな)える第一歩として、また実用的な
ツールとして、竜星は『色のことば選び辞典』
購入(こうにゅう)することに決めた。

竜星が目を留めた色。
 
――撫子(なでしこ)色。
 
すぐにキャンバスに向き直り、パレットで
絵具を混ぜ合わせる。
赤に、少しの黄。それと黒を面相筆(めんそうふで)穂先(ほさき)ばかり。

竜星が目を留めた色。
 
――撫子(なでしこ)色。
 
すぐにキャンバスに向き直り、パレットで
絵具を混ぜ合わせる。
赤に、少しの黄。それと黒を面相筆(めんそうふで)穂先(ほさき)ばかり。

それで、やわらかくも(いろど)りのある撫子色ができあがる。
竜星はそれを筆にとると、慎重(しんちょう)に画面へと()りつけた。
 
――うん、いいじゃん。
 
彼は(かべ)()えていく。
己の夢だけを追いかけて。

それで、やわらかくも(いろど)りのある撫子色ができあがる。
竜星はそれを筆にとると、慎重(しんちょう)に画面へと()りつけた。
 
――うん、いいじゃん。
 
彼は(かべ)()えていく。
己の夢だけを追いかけて。

色のことば選び辞典

「自分の文章でつかう色のことばにバリエーションが少ない……」
「自分の脳内に浮んでいる色、何ていうのがいちばん近いのか皆目見当もつかない」
「この色を小説で使いたいんだけど、これどんなときに使われるの? 」
と悩んだときに、手軽に開けるスマホサイズの辞典です。